繰り返す表現のみが、存在意義

 
 


KAN(カン)という歌手(シンガー・ソングライター)をご記憶だろうか?

「愛は勝つ」といえば、わかるだろうか?
バブルのころに流行った歌として、覚えていらっしゃるか?
1990年に大ヒットした、彼の代表曲だ。


ええと。
今回は「愛は勝つ」のハナシではなくて。

彼の書いた、ある歌詞について、話をしたいからだ。


「songwriter」(ソングライター)
1997年の曲。

ご記憶だろうか?
きっと、ご存じない方が多いかと。

1997年当時、世間一般は、彼のことを忘れていただろうから。
かくいう私も、当時、忘れていた。


KANさんのファンというわけではない。
でも、レンタルCDからダビングしたカセットテープを持っている。
クルマのカセットデッキで、何年に一回は聴く。

そのたび、しみじみ思う。
『このひとは、歌を作るのが、なんとうまいんだろう』
小さいころから、音楽教育を受けていたという。
なるほど。どおりでスジがいい。

ツボを心得ているのだ。

いや“心得ていた”といったほうが正しいか?
時流をつかみ、“的を得ていた”といったほうが正しいか?
(ご本人と、ファンのみなさんには、失礼かと思うけど…)

で、彼は1990年代前半、複数のヒットを飛ばした。


しかし、90年代もなかごろになって。
世は不景気となり、時代も嗜好も変わって、
世間は彼のつくる曲に注目しなくなった。

そのときの心情を知るよしもないが。
きっと、つらかっただろう。

きっと、そういう心境で「songwriter」は、書かれたのだろう。


歌詞を転載するわけにはいかないので、
要約をこころみてみる。

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  私はソングライター。

  ふと、こんなメロディーが浮かんだんだ。
  ちょっと弾いてみるよ。

  こんな感じなんだけど、どうかなぁ?


  ソングライターとしての私。
  過ぎ去りし日々を思う。

  自信に満ち、愛に恋に必死だった自分。

  しかしそれは、過去の美しい思い出。
  できるだけ傷つけぬよう、とっておきたい。


  そしていま。
  自信のない自分がいる。
  なんもアテもなく、叫ぼうとも、答えは出ない。


  きっと。
  未来は遠いあの雲の向こうに広がっているはず。
  しかし、まだ、それは見えてこない。


  私はソングライターだから。
  ピアノの鍵盤をたたいて、
  繰り返し、くりかえし表現する。
  そうすることが、たったひとつ残された
  私の存在意義なんだと思う。


  ふと、こんなメロディーが浮かんだんだ。
  ちょっと弾いてみるよ。

  こんな感じなんだけど、どうかなぁ?

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“日本語を日本語訳する”って、初めてだ。
こんな感じなんだけど、どうかなぁ?


長くなったので、そろそろ本題。

「songwriter」の歌詞、
1か所だけ、引用させていただく。


「繰り返す表現のみが、唯一存在の意義です」


そこに、とても合点がいっている。
グッときている。

クラフトマンが生きる世界は、
ソングライターが生きる世界と似ていると思う。

ソングライターは。
そしてクラフトマンも。
ヒット作を出すことで生きてける、食ってける。

うまくいくこともあれば、自信を失うこともある。
それでも未来を信じて。

……と。
いろんな思いが去来するが。

結局は、手を動かして、モノをつくることが、
クラフトマンの存在意義なのだ。


ソングライターは、
あたらしい曲を書く。そして繰り返し歌う。

クラフトマンは、
あたらしいものを生み出す。そして繰り返し作る。


「繰り返す表現のみが、唯一存在の意義です」


写真に写っている名刺入れは、技術専門校(訓練校)時代につくったもの。いまも現役で使っている。こんどの「fact card case」は、これとはまったく異なる、コンセプトとデザインで進めています

つぎの新商品、
名刺ケース「fact card case」の設計をしている最中、
KANさんの「songwriter」のこと、ふと思いだしたのです。


ほんと、長くなったので、名刺入れの話は、次回にします。


KAN作詞・作曲・歌「songwriter」(歌詞つき)≫
youtubeのリンク、音がでます


11/07/09 edaha-006

【追記】
KANさんは、その後、youtubeのLIVE映像にも出ていた
バイオリニストと結婚したそうな。

そして「フランス人になりたい」とパリへ渡り、
音楽学校(音楽院?)で、ピアノを学び直し、そののち帰国。

いまも、songwriterとして活動しています。

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