G線上のアリアと紙ヒコーキ


ものを作りだすと、止まらないタイプだ。
わき目もふらず、メシのことさえ、忘れてしまう。

むかしからそうだった。

いちばん古い記憶としては…。
小学2年生のこと。


「紙飛行機大会」なるものが開かれることになった。

みんな、紙ヒコーキを作って。
集まって、距離を競おう!
そんな、シンプルな行事だ。

大会の前日。
先生が「好きな紙ヒコーキを作りましょう♪」と、
紙の束をドスンと教卓の上に積んだ。

みんな紙を折って、思い思いに折って。

で、教室を紙ヒコーキが、ビュンビュン飛び交うわけ。
なかなかに楽しい時間だった。


そのとき。小2のカワハラくんは…。

1枚の紙をジーッと見つめたまま動かなかった。

そして、しばらくしてから…。
紙の端と端をキッチリ合わせ、
爪で、ピシッと折って…。
じ−っくり時間をかけて。

みんなが飛ばすのに飽きたころ、
ようやく、ひとつのヒコーキを折りあげた。

そのように、記憶している。


続きがあります。

その日の終礼のあと…。
「せんせい。もっと作っていいですか?」

放課後の教室で。
何機も、何機も、折って折って、折り続けた。


気づけば、ぽつーんと、わたしだけが残る教室。
先生がやってきた。
下校時間の4時半だった。

長谷川先生、だったと思う。
ベテランのやさしい女の先生だった。

先生が。
「カワハラくんに、お願いがあるのよ」と切り出した。

「あした、先生の、飛ばしてくれる?」
そして、差しだされたのは、先生が折った紙ヒコーキだった。

ひとりにつき、2機飛ばせることになっていた。
そのうち1つ、先生のヒコーキを飛ばしてほしい、ということなのだ。


「わかった」
そう言って、受け取った。

ほんとはね。
自分の折ったヒコーキを2機、飛ばしたかった。

でも。先生の気持ち、わかるなーって。
だって、先生は大会に出られないんだから。


いっぱいの紙ヒコーキを、大きな袋に入れて、
夕暮れの教室を出た。

下校時間を知らせる音楽、バッハの「G線上のアリア」が流れるなか、
西日射す階段を、ひとり、一歩一歩降りた。


11/05/18 edaha-003
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