月がほんのりと、青白く、道を照らす。
仲秋の名月のころ。
安曇野をクルマで行く。
月って、かなりの光量があるもんだ。
ぼんやりしていたのか……道に迷った。
クルマを停め、ルームランプに地図をかざす。
といっても、目標物はない。
林のなか。
月明かりに木々のシルエット。
面倒になって、エンジンを切り、シートに体を預ける。
静寂。
恐怖さえ感じるほどの静けさが、
林を支配している。
コツンと、
窓ガラスに何かが当たる。
思わず、身を縮める。
……ドングリ、かな。
そうか。秋がやって来たんだな。
ふいに、記憶の引き出しが開く。
−夜の間でさえ、季節は変わってゆく−
マイ・リトル・ラバーの
Hello, Againのワン・フレーズ。
「Hello, Again 〜昔からある場所〜」
流行っていた当時は、大阪でコックをしていた。
この曲、調理場の有線放送から、
しばしば流れていたので、よく憶えている。
仕事がえりにいってたスナックのカラオケでも、
よく歌われていたな。
当時は、その歌詞になんにも感じなかった。
都会じゃあ、微妙な季節の変化はわからないから。
キタの新地では、ドングリは落ちてこない。
あの街には、事実上、月は存在しない。
「夜の間でさえ、季節は変わってゆく」
『なるほど、よく言ったものだ』と、
クヌギ林で、なかば勝手に独りごちて。
思うに、季節というのは…
時計の短針のように、
動いているのか、わからないが、
気づけば、進んでいる。
そして、夜であっても、着実に進んでゆく。
コツンと。
こんどは屋根に。
あ、行かなきゃ……。
正気に戻る、満月の夜。
クヌギの木はドングリを結実させ、地面に落とすと、
今年の仕事を終え、葉を散らす。
そのころ、北アルプスに初冠雪がやってくる。
■ 2009/10/12 ■
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Illustration:Motoko Umeda
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