松本にきて、しばらくのあいだ。
クルマなしで暮らしてみた。

ほどなく、その生活は破たんした。

この地において、クルマを否定することは、
「生活」という単語のうしろに“苦”がつくことを意味する。
高すぎます、バスの運賃…。
そして、クルマがなけりゃ、
できる仕事さえ、限定されてしまう。

で、クルマを買った。
ほどなく、それに依存するようになった。
この一年で数えても、1万5千キロは走ってる。


さてさて。
その大切なクルマ。
大事な、だいじな、クルマさま。
ボディは、シロ。ホワイト、純白だ。

とくに、色にこだわりはない。

しかし、寒い季節がやってくると、
『なぜシロにしてしまったのか?』
やや、ではあるが、後悔してしまう。


晩秋、初冬の松本・安曇野一帯には、
朝霧が濃くたちこめる。
空気中の水分が急激に冷やされ、発生する
“放射霧”というヤツだ。
わがクルマはすっかりそれに溶け込んでしまい、
視認性がすこぶるよくない。

そして、雪降る日がやってくる。
粉雪のカーテンに隠れて、これまた目立たない。

雪が融ければ、泥はね。

無垢な白いボディは、
有明海名物、干潟の運動会“ガタリンピック”の選手みたいに、
変わり果てた姿となる。

なるほど、松本のガソリンスタンドには、
豪華な洗車機があるわけだね。
そして洗車場には、クルマが列をなしてたりもする。


また、寒波がやってくるらしい。
なかなか暖まらない車内で、
遠い春を想う。


■ 2009/01/28 ■



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Illustration:Motoko Umeda
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冬の車内で
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