携帯電話を忘れた。
で、公衆電話を使った。
久しぶりに使った。
それにしても
使わなくなったなぁ、公衆電話。
さて、木工の世界でも、
めったに使用しない工具というものが、
少なからず存在する。
しかし、使わないからといって、
その道具が無用の長物であるかというと
そうではない。
富山は井波という町で聞いた話。
井波は県西部の南砺市にある町で
欄間など、手の込んだ高度な彫刻で有名だ。
彫刻も、複雑なものになれば、
ノミや彫刻刀の数は200種類を超える。
刃先のカーブを微妙に変えたり、
刃がコの字になったものやら、
サジのようになったものやら。
でもでも、ホントに200種類も使うのだろうか?
そこで、井波の町の彫刻刀を売る店で、
その疑問をぶつけてみた。
すると…。
「実際、使わないものもあると思いますよ」
ん、じゃあ、なぜ?
「道具を見て、イメージするんですね」
つまり、使わなくても、刃先を見ながら、
『この刃を、こう動かせば、こんなカタチが…』
と、インスピレーションがわくというワケだ。
たしかに。
あたらしい加工法や、作品のイメージって、
道具を動かしている最中に、
ふと思いついたりするものだ。
道具はあるに越したことはない。
買う、眺める、使ってみる。
ただし、そのなかには、
何回か使ったきり、お蔵入りになるものもある。
そのうち、存在すら忘れてしまう。
公衆電話のように。
でも、公衆電話って捨てたもんじゃない。
受話器の向こうの声は明瞭だったし、
おカネがなくなる感覚がダイレクトで、
話を早く切り上げたくなるから、安上がりだ。
さて、久しぶりに、忘れかけた道具でも、使ってみますか。
反りがんなとか、ダボ切りノコとかね。
■ 2008/07/11 ■
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Illustration:Motoko Umeda
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